建設業界で働く人の中には、会社に雇われず自分で事業を行う個人事業主や一人親方の方も多くいます。この人たちが法人化、会社を設立することを「法人成り」といいます。
法人成りは、個人事業が軌道に乗った時点で行うイメージがあると思います。
今回の記事では、法人成りのメリット・デメリットを解説します。
建設業許可業者【個人事業主と法人の状況】
まず、建設業許可業者全体の中で個人事業主の占める割合をみてみましょう。
建設業許可業者の中で個人事業主は全国で約68,000者、全体の中で占める割合は14.4%です。
個人事業主が建設業界の中で一定の存在感があることがわかります。
次に、平成12年のデータと比較してみます。
個人事業主の許可業者数の減少幅は大きく、約89,000者が減少しています。
逆に、資本金1,000万円未満の法人数は増加しています。
このことから、一定数が個人事業主から法人成りしている実態がわかります。
会社法が改正されて、資本金1,000万円未満でも株式会社が作れるようになったことも影響していると思われます
法人成りのメリット
今のまま個人事業主として建設業を続けた方がいいのか?それとも会社を作った方がいいのか?誰もが一度は悩む問題です。
個人事業と法人のどちらが向いているかを判断するためには、それぞれのメリットやデメリットをしっかりと理解することが大切です。
ここでは、まず法人のメリットについて説明します。
節税効果がある
売り上げが一定規模以上になると個人事業主と法人では税金に差が出てきはじめ、その差は売り上げ規模が上がるほど大きくなります。
これは、個人事業主にかかる税金は所得が増えるにつれて課税率が上がる累進課税のためです。その税率はMAXで45%にもなります。
一方、会社は法人税として課税され税率は15~20%台です。また、保険や家族への報酬、交際費など個人事業ではできない経費の扱いができるので税金対策が可能です。
社会的信用度のアップ
個人事業と異なり、会社設立のためには法務局へ登記を行う必要があります。
登記事項証明書には本店所在地や事業目的、資本金額、役員情報などが記載され、申請すれば誰でも取り寄せることができます。
対して個人事業は税務署へ開業届を出すだけで始めることができますが、当然法人の方が社会的信用度はアップします。
金融機関の審査や取引先の発注条件に、法人であることが必要となる場合もあります。
株式会社は責任の範囲が限定的
個人事業主に事業用資産と個人資産の区別はありません。
もし事業に失敗した場合個人の全財産を取り崩してでも債務や未払金に充てなければならない無限責任です。
一方、株式会社の場合は資本と経営が完全に分離しているので、株主(社長)の責任は有限責任です。
以前は社長個人が連帯保証人になり個人資産も担保にとられてるケースがほとんどでしたが、最近は減っています。
法人成りのデメリット
節税効果や市信用度のアップなど法人のメリットをみてきましたが、もちろんデメリットもあります。
個人事業と比べてどのような不利な面があるのか?をしっかりと理解した上で、法人成りをするかどうかや時期を決めるといいでしょう。
法人設立や運営のコスト
法人設立には定款作成や公証人役場での認証、法務局への登記が必要で、併せて登録免許税や行政書士、司法書士などへの費用も発生します。個人事業主の場合税務署と都道府県への開業届のみです。
また、法人化すると毎年の株主総会が必要です。決算書も損益計算書と貸借対照表を作成しなければならず、個人事業と比べると複雑な申告となります。
会社は個人事業のように税金のためだけに売り上げと経費を計上して完成とはいかないのです。
会社にするとメリットが大きい反面、運営にコストがかかるようになります
社会保険加入に加入しなければならない
個人事業主の従業員が5人未満であれば社会保険への加入は義務ではありません。
法人の場合は従業員数にかかわらず社会保険への加入が義務付けられています。
会社は従業員が負担する保険料を給料から天引きし、会社負担分とあわせて毎月国に納めます。→社会保険についての記事はコチラをどうぞ
社会保険は会社にとって大きな負担となります
個人事業から法人へ建設業許可の承継が可能に
令和2年以前は個人事業で建設業許可を受けていて法人成りする場合、再度新規で許可を受ける必要がありました。
令和2年の建設業法改正により、個人→個人や個人→法人、法人→法人などの建設業許可の承継が可能となりました。
これにより、個人事業から法人成りした場合の建設業許可の承継も可能となっています。
事前に愛媛県の認可が必要となります
まとめ
個人事業主が建設業許可を取得する場合、以前は許可後の法人への許可承継ができなかったため法人化とセットで考える必要がありました。
現在は許可取得後に法人成りした際の許可承継が可能です。
法人成りするかどうかは売り上げ規模により節税効果が見込めるかどうかや受注や融資の上で信用度を高める必要があるかなど総合的に判断するといいでしょう。